金融庁主催インパクトフォーラム登壇レポート

1. インパクトフォーラムとは

2024年5月14日(火)に、昨年11月に金融庁を中心に設立された「インパクトコンソーシアム」の第1回総会と併せて、産官学の幅広い分野の連携や投融資等におけるインパクト創出の普及と推進を目的とした「インパクトフォーラム」が開催されました。

様々なセッションを通じてインパクト創出の投融資に関するディスカッションが行われ、国内外からおよそ30名超のゲストが意見交換をし、インパクト投資市場の参加同士が相互理解を深める機会となりました。

今回のブログでは、GLINが企画パートナーとしても携わらせていただいたフォーカスドセッション「資本市場の将来を考える ~インパクトによる事業評価と投資機会〜」の振り返りを、登壇者の一人である投資チーム川島(※2024年6月より経済産業省に出向中)のレポートとしてご紹介いたします。

2. パネルディスカッション「資本市場の将来を考える~インパクトによる事業評価と投資機会〜」

ファンドが目指す社会に向けたインパクト投資のプロセスについて

今回のパネルは、「資本市場の将来を考える ~インパクトによる事業評価と投資機会〜」と題し、実際にインパクト投資に携わる実務家やアセットマネジャー機関の方々が登壇しました。インパクト投資と一口に言っても戦略やプロセスは多岐に渡りますが、今回川島は「インパクト投資のプロセス」をテーマに、第一世代のインパクト/ESG投資家であるGLINの事例をミッション、投資戦略、提供バリューの観点でご説明しました。

GLINは資本主義の中で「経済成長と共に自律的に社会課題が解決する社会の実現」というミッションを掲げています。このミッションの達成に向けて我々が重視して取り入れているのが「外部経済性」という観点です。具体的には、ビジネスが持つ外部経済性に留意しながら、社会課題を解決する意図を持ち、革新的で追加性の高いビジネスを営むスタートアップに対して、マーケットレートのリターン創出を目指す形で、これまで国内外で7件の投資を行っています。

投資検討時は、初期段階でインパクト評価(インパクトDD・ESGネガティブチェック等)を行うことでスクリーニングをかけ、最終意思決定までに企業が事業を通して生み出すインパクトの解像度をあげるためにさらに深堀りしていきます。一方で、私たちは社会課題の解決のためにはサステナブルかつスケーラブルな事業成長が重要だと考えているため、ビジネス、ファイナンシャル等の観点も従前の投資と同様に比重高く分析しています。

投資後にはIMM(Impact Measurement and Management) 導入の一環で、インパクトマネジメントサイクル構築支援としてロジックモデル策定やKPI設定等を実施します。インパクトマネジメントの目的は複数ありますが、その背景には単なるKPIとして利用するだけではなく、企業競争力を高めるために行うものだという考え方があります。GLINが投資先のインパクトマネジメントをサポートすることによって、事業戦略の策定や各ステークホルダーに対する説明力の向上に活かすことが出来ると考えています。

また、私たちは投資後のバリューアップ支援の1つとしてセオリーオブチェンジを策定します。例として、GLINの投資先である坂ノ途中に対しては、解決する課題やステークホルダーへの付加価値、そして将来生み出したいアウトカムの繋がり等を伴走しながら解像度を上げる支援を行いました。その過程では、創業者やステークホルダーが考えるバリューやビジョンの言語化に努めました。

インパクト投資の可能性および企業価値との関係性について

次に川島は、企業価値を考える際に、事業を遂行する企業側と、評価する投資家の、両方の観点についてお話ししました。

企業がインパクト投資に取り組む意義は、自社が創出する価値創造に対する受益者の理解、既存戦略の改善あるいは新規事業開発への繋がり、ミッションアラインメントの高さを背景とした従業員のリテンション改善など、企業価値に対するポジティブな影響といえます。また今後、働き手や資金の出し手が社会的インパクト創出やサステナブルな事業への関心が高いミレニアル世代・Gen Z・α世代等の次世代にシフトしていくことも見過ごしてはならない理由の一つと考えています。

投資家の視点からは、インパクト投資の観点を企業価値算定時に活かせると考えています。非上場企業の場合、特定の投資家と近い距離で対話できるため、理解されやすい一方で、上場企業は不特定多数のステークホルダーから創出するインパクトに関する理解を得る必要があります。その際、インパクト指標を定点観測してモニタリングできれば、業績との連関を推測する可能性が高まるでしょう。また、企業の価値創造のロジックやナラティブが明確であれば投資家からの共感を得やすくなり、中長期的な投資のインセンティブになり得ます。

他方、企業および投資家にとっては、自社・投資先が生み出すインパクトに関するデータの取得・測定、閾値の設定、事業への落とし込み、金融市場における企業価値への反映の連関性の証明など、インパクト投資やIMM実施の為に超えていくべきハードルが高いという残課題があることも事実です。今後は企業価値に与える影響に関する議論を業界全体で行いながら、コンセンサスを確立する流れが期待されます。

参加者の声

本セッション終了後に参加者の皆様にアンケートをご回答いただきました。

インパクト投資は企業への投資の本質的な考え方であり、投資を通じて社会課題の解決をするには不可欠の考え方だと感じたため今後積極的に取り入れたい」「参加者同士、様々な立場の人の考えを聞くことで資本市場の未来を考えることができ、本企画の趣旨である意義を感じた」「課題とともに可能性を考える良い機会になった」などのお声をいただき、ESG投資のようなリスクマネジメントフレームワークではなく、インパクト投資には、企業価値向上にポジティブな作用をもたらし得る側面があることを少しでもご理解いただけていたら幸いです。

他方で、「IMMが説明力の高いツールと理解しているが運用負担があり、効果的な使い所を模索したい」や「インパクト投資がビジネスになるか不透明であり、明確な投資理論がまだできていないため、取り組みたいが未定」というお声もいただきました。GLINとしてもインパクト投資やインパクト評価に取り組む意義や効果をさらにエコシステムに共有できるよう投資経験やインサイトの発信を強化していきたいと考えています。

3. 登壇の振り返り

最後に、本セッションに登壇した投資チームマネージャーの川島より、登壇を終えての振り返りをご紹介します。(※経済産業省出向前2024年5月時点のコメント)

「インパクト投資市場は、まだ正解がない黎明期であり、様々な哲学・思想・ポリシーに基づいた評価手法や投資戦略が今後も生まれると考えています。私たちは引き続き、多くの試行錯誤の中でプラクティスが生まれ、結果が共有され、最適な手法を見つけていく過程を経験するでしょう。GLNとしては、グローバル投資家やインパクト投資関連機関あるいは高等教育機関の先端的なナレッジを常に貪欲に、かつ謙虚に学び、自社の活動に反映させながら市場全体に還元していきたいと考えています。

この度は登壇に加えて企画運営に携わる機会をいただきました。登壇者、議論参加者、運営サポートメンバーの皆様の厚いご協力に心から感謝を申し上げます。様々な立場の方が抱く期待と疑問を直接聞く機会となり大変勉強になりました。皆さまのご意見を反映させながら、業界の発展に日々貢献してまいります。」

今後も、GLINは今回のような登壇の機会を通じて日本のさらなるインパクトスタートアップ普及に向けて、エコシステム構築に励んでまいります。

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