「Project FRAME」のフレームワークとは?~将来の温室効果ガス排出削減量をいかに算定するか~

インパクト評価方法の標準化が急務

評価方法はまだ発展途上

インパクト、つまり「短期、長期の変化を含め、当該事業や活動の結果として生じた社会的、環境的なアウトカム(変化・効果)」1の評価方法はまだ開発途上です。インパクトの評価方法は現時点では様々な団体がフレームワークを公開しており、解決しようとする課題や用途によって使い分けているのが現状です。

グリーンウォッシュやネガティブインパクトへの投資を防ぐために

そもそもなぜ統一したインパクト評価方法が必要なのでしょうか。それは、統一したフレームワークがなければ、例えば環境分野であればグリーンウォッシュ(※)や、環境へのネガティブインパクトがある技術に出資してしまうなどのリスクがあるためです。国際エネルギー機関(IEA)は、2024年のクリーンエネルギー技術とインフラへの世界的な投融資額が2兆ドルに達すると予測しています2。他方、こうしたいわゆる「グリーン技術」による温室効果ガス(GHG)の削減貢献量に関する将来予測的なインパクト評価や報告の義務は、現時点で存在していません。業界で統一された基準や規制がなければ、グリーンウォッシュに繋がるリスクがあります。

(※)「グリーンウォッシュ」とは
環境インパクトの将来予測の文脈では、以下のような課題が想定されます。
➀誇大・虚偽の報告:故意・過失に拘わらず、実際に創出するインパクト(削減貢献量など)よりも、過大に予測すること
②負のインパクトの無視:製品・サービスがもたらす正のインパクトのみを評価・報告し、サプライチェーン上の負のインパクト(生産過程におけるGHG排出量や廃棄物量等)を見込まないいこと

「Project FRAME」の温室効果ガス排出削減量算定フレームワーク

気候関連投資によるGHG排出削減量の評価方法は統一されつつある

まだインパクト評価方法は発展途上ですが、GHG排出量を削減する気候変動分野の投資によるGHG排出削減量に関するインパクト評価は、統一見解が形成されつつあります。

2024年11月に環境省は「投資家とスタートアップ向け:Climate TechのGHGインパクト算定・評価に関する手引き」というGHG排出量削減のインパクト評価に関する手引きを公開しました3。GLINもClimate Techのインパクト評価・マネジメントに関する検討会の委員として本手引きの発行に協力しています。

この「手引き」は「Project FRAME」という団体が策定したガイドラインを参照しており、実際に欧米のインパクトファンドと議論すると、皆口を揃えてProject FRAMEに沿ったインパクト測定を行っていると言及しています。この記事では、Project FRAMEと、Project FRAMEによるGHG排出削減のインパクト評価方法についてご紹介します。

気候関連投資の不透明さの解消を目指すProject FRAME

Project FRAMEは、GHG排出削減に関する将来予測的なインパクト評価方法と報告のベストプラクティスを投資家に共有することを目的として設立された非営利団体です。「気候関連投資の不透明さを解消し、インパクト測定管理(IMM)を改善することで、最善の気候変動の解決策に資本を集中させると同時に、透明性・説明責任・連携を軸としたネットワークを活性化すること」4を使命としています。2024年5月時点で345の投資機関が参加し、これらの機関の投資残高は6,700万米ドル以上にのぼります。

Project FRAMEの主な活動は、排出インパクトの算出の方法論や報告基準の構築です。2023年4月には、GHGプロトコルや責任投資原則(PRI)などのフレームワークを補完するものとして、投資家・スタートアップ向けに「Pre-Investment Considerations Diving Deeper into Assessing Future Greenhouse Gas Impact(投資前の検討事項:将来のGHGインパクト評価のさらなる詳細分析※GLIN仮訳)」を公表しました。今回、環境省の手引きは本ガイドラインを参照して作成されています。

将来の気候関連インパクトを算定する2つの方法

Project FRAMEによる「Pre-Investment Considerations Diving Deeper into Assessing Future Greenhouse Gas Impact」では、将来の気候関連インパクトを「あるソリューションが、定義された現状または既存の状態と比較したときの、GHG排出量の直接または間接的な変化」と定義しています。5そして、この将来の気候関連インパクトの算定アプローチには、その算定方法の精緻さによってPotential Impact(潜在的なインパクト※GLIN仮訳)アプローチと Planned Impact(計画的なインパクト※GLIN仮訳)アプローチの2種類あるとしています。

Potential Impactアプローチは、あるソリューションが達成しうるGHG排出削減量を、標準的な成長曲線(≒市場成長予測)を前提として算出するものです。理論上の最大の市場規模(Total Addressable Market:TAM)及び自社のターゲットになり得る市場(Serviceable Available Market:SAM)を基にトップダウン・アプローチで算出します。

Planned Impactはあるソリューションを展開する企業が、自社のビジネスモデルの現実的な分析に基づいて達成しうるGHG排出削減量です。具体的には、その企業の資源、能力等をもとに作成している事業計画及び売上予測を基にボトムアップ・アプローチで算出されます。

Potential Impactは一般的な市場成長に基づく仮説的な算出方法であることに対し、Planned Impactは個別企業の事業計画に基づくため、より精緻な算出方法と考えられます。

※すでに実現されたインパクト(実際に削減されたGHG排出量)は、Realized Impactと呼ばれます。

Potential Impact、Planned Impactの両アプローチにおいて、インパクトの算出は、気候関連ソリューション1単位当たりのインパクト x 活動量(売上予測・市場予測)で測定します。1単位当たりのインパクトを検討する際には、バウンダリー、排出係数等、そのソリューションを踏まえた最適な計測の仕方を特定することが推奨されています。

こうした算定アプローチは、シード~レイター等のスタートアップ企業や対象となるソリューションのステージ等、状況にあわせて使い分けることが想定されます。企業、ソリューションともにアーリーな段階では、市場データから推計するPotential Impactアプローチが、より成熟し事業計画の蓋然性が高いレイター段階ではPlanned Impactアプローチの活用が適切です。

日本企業にとってインパクト評価はますます重要になる

世界では、ネットゼロ目標を表明する国が着実に増えており、GHG排出量削減と経済成長を実現するグリーントランスフォーメーション(GX)に向けた投資競争が激化しています。COP29などの世界的な会議においても、益々ファイナンスの役割が注目されています。日本政府も、2023年6月にGX推進法を施行し、2050年ネットゼロ、および産業競争力強化・経済成長を共に達成するためには、今後10年間で150兆円超の官民GX投資を実現する必要があるとしています。6そして、GX 経済移行債を活用することで、国として20兆円規模の大胆な先行投資支援を実行していくとしています。

このように将来の環境価値創出を前提としたGX投資が増える中で、財務的なリターンだけではなく、インパクトのリターンの透明性を求める声は確実に強まることが予想されます。投資家も、投資を受ける企業も、投資案件や事業のインパクト予測を、納得性の高いロジックに基づき、透明性高く算出することがますます重要になります。

GLINの事業・投資案件に対するインパクト評価(予測)サービス、インパクトデューデリジェンスサービスにおいては、その評価対象によって、Project FRAMEをはじめとする適切な国際ガイドラインを選択し、参照しています。また、これまでの投資・コンサルティング事業を通じて獲得された実務経験に基づき支援を提供いたします。

【出典】

  1. 社会的インパクトマネジメント(SIMI)による定義を引用 ↩︎
  2. 国際エネルギー機関(IEA) ↩︎
  3. 環境省 ↩︎
  4. Project FRAME ↩︎
  5. Project FRAME ↩︎
  6. 経済産業省 ↩︎