TNFD対応、何から始める?TNFDフォーラム、TNFDアダプターの違いを解説!

はじめに

2023年9月、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の最終提言が公表されました。TNFD提言は、企業や金融機関が、自然資本や生物多様性に関するリスクや機会を適切に評価し、開示するための枠組みです。この動きを受け、具体的なアクションを検討されている企業も多いのではないかと思います。

 2017年にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言が公表された際、日本ではプライム企業を中心にTCFD提言への賛同を表明する※企業が徐々に増加しました。これらの企業は、必ずしもTCFD提言に確実に対応ができるようになってから賛同したのではなく、「まずは賛同を表明してから、徐々に開示情報の充実や取り組み自体の強化を図っていこう」というスタンスを取った企業が多数なのではないかと思います。TNFD提言に対しても同様で、先ずは賛同を検討されている企業が多く存在するのではないでしょうか。

 今回の記事は、TNFD提言への「賛同」に同義である「TNFDフォーラム参画」と「TNFDアダプター」についてご紹介します。

※TCFD提言への賛同は様々な形式がありますが、多くの企業では、TCFD公式ウェブサイト上から専用のフォームに入力・送付することで、サポーターとして登録が行なわれていました。なお、現在はTCFDが解散したため、サポーターリストの更新は停止しています。

TNFDとは

TNFDとは、「Taskforce on Nature-related Financial Disclosures」の略称で、日本語では「自然関連財務情報開示タスクフォース」です。気候関連の情報開示フレームワークを作成した枠組みであるTCFD(※現在は発展的に解散済み)に続き、資金の流れをネイチャーポジティブに移行させることを目的に2019年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で着想され、2021年に発足されました。立ち上げ以降、TNFDは自然資本関連の情報開示フレームワーク作成のための活動を行っており、2022年から順次ベータ版のドラフトを公表し、2023年にはフレームワーク(「Recommendations of the Taskforce on Nature-related Financial Disclosures」(最終提言))を公表しました。また、この際、TNFDは金融機関向けガイダンスや、初期的ガイダンス、LEAPアプローチ(LEAP=​​Locate, Evaluate, Assess and Prepare)と呼ばれる自然関連のリスク・機会の特定・評価のための手法に関するガイダンス等を同時公表しています。この結果、自然関連の情報開示を開始する素地ができあがりました。

TNFD提言に対して「賛同を表明」するとは?

TNFD提言の趣旨や記載内容を理解し、提言に従って自然関連のリスク・機会に関する情報開示を検討している企業にとっては、TCFD同様、「賛同の表明」が、TNFD提言に準拠するためのアクションの第一歩となるでしょう。賛同を表明することで、企業姿勢のアピールや最新の情報獲得機会の増加が期待されます。
TNFD提言に対して、「賛同を表明」する方法には、形式の異なる「TNFDフォーラムに参加する」と「アダプターになる」の二通りの方法があると考えられます。

TNFDフォーラムと TNFD アダプター

ここからは、「TNFDフォーラム」と「TNFDアダプター」について、比較の形式でご紹介します。

概要

TNFDフォーラム

TNFDフォーラムは、2019年のTNFD立ち上げと同時に、TNFDの議論をサポートするステークホルダーの集合体として立ち上げられました。設立以来、環境省等の省庁や、団体、金融機関、事業会社等の団体が日本から参加しています。

TNFDアダプター

TNFDアダプターは、TNFD提言に基づく情報開示を2023年度~2025年度の会計年度に行う意向をTNFDに示した企業・団体を指す呼称です。「アダプター」は“Adopt”、つまり「採用する」「適用する」ことを決めた企業のことを意味しています。

特に、TNFDアダプターの中でも、2024年1月までの期間に適用の意向を正式に示した企業が「TNFDアーリー・アダプター(早期適用者)」※としてリストが公表されています。リスト中の世界のアーリー・アダプターでは、日本企業の数が最も多かったこともあり、日本国内で注目が高まっています。https://tnfd.global/engage/inaugural-tnfd-early-adopters/

※「TNFD アーリー・アダプター」への登録は、2024年1月10日をもって終了しており、現在はTNFDアダプターとしての登録が可能です。

誰がメンバーになれる?

TNFDフォーラム

TNFD提言や各種ガイダンスの開発を多角的な視点から進めるべく、企業、金融機関、公共セクター、年金基金等運用ファンド、学術研究機関など、幅広い機関の参加を歓迎しています(但し、個人は会員になれません)。メンバーシップは無料です。

TNFDアダプター

アダプターになれる形態(企業等)は明示はされていませんが、アダプターは、外部の資本提供者やその他ステークホルダー(公的債務や株式を持つ組織、資産運用者および所有者を含む)に対する報告義務を有するべきとされています。そのため、こうした開示を行う企業や金融機関が主な候補者であるといえるでしょう。

メンバーになることのメリットと義務は?

TNFDフォーラム

  • メリット:メンバーは、①TNFDの定期的なアップデート情報(ニュースレター、ウェビナー等)へのアクセス、②TNFDの作業グループや研究プロジェクトへの情報提供の機会、③TNFD事務局が開催する能力構築のためのウェビナー参加が可能です。また、フォーラムに登録すると、TNFD共同学習プラットフォームである「The TNFD Community of Practice」(※本記事執筆現在は調整中)への参加も可能となります。
  • 義務:TNFDフォーラムのメンバーシップは、TNFDとの契約上のパートナーシップや形式的な関係に参加することを意味せず、特段の義務は生じません。

TNFDアダプター

  • メリット:「TNFD提言に基づく開示を行っている/約束した」と公にアピールすることができます。下記「義務」にも記載していますが、TCFD提言の賛同とは異なり、アダプターになった場合には、約束した会計年度にTNFD提言に基づく開示を財務年次報告書(日本では有価証券報告書等が該当)等で開示することが求められます。その分、「アダプターである」ということは、企業の自然資本・生物多様性に対する真剣な姿勢を示すことに繋がると考えられます。
  • 義務:アダプターとして登録すると、登録時に選択した会計年度(本記事執筆時点では2024年または2025年のどちらか)の財務報告書等で、TNFD提言に基づく開示を行う必要が生じます。他方、必ずしも初回からTNFD提言が推奨する14個全ての開示推奨事項に整合した開示を行う必要はなく、TNFDでは、徐々に開示の深さと幅を拡大していくことが推奨されています。TNFDは開示を行うこと、つまり企業が外部のステークホルダーに対して開示を通じて企業の自然関連課題への姿勢(コミットメント)を公に示すことをアダプターに期待していると言えます。

登録の方法は?

TNFDフォーラム

TNFDフォーラムに参加するためには、TNFDの「TNFD Forum」ページから参加を申し込みすることで申し込みが完了します。一定の審査の後、フォーラムへの参加が認められる流れとなります。

TNFDフォーラム参加登録Webサイト:こちら

TNFDアダプター

TNFDアダプターとなるためには、専用の登録ページから申し込みをします。申請情報をTNFD事務局が確認すると、確認のメールが申込者に送付され、TNFD WebサイトのTNFDアダプターリストに企業情報が掲載されます。

TNFDアダプター参加登録Webサイト:こちら

最後に、ここまでの内容をまとめます。

以上のように、TNFDフォーラムとTNFDアダプターには、異なるメリットや義務が存在しています。まずは「TNFDについて理解を深めたい」「財務報告等今すぐの対応は難しいが中長期的に対応を検討している」という方は、まずはTNFDフォーラムへの登録から始めてみてはいかがでしょうか。2022年のCDP質問書への生物多様性関連の設問の導入等1、生物多様性に関する注目は今後増していくと考えられます。今回ご紹介したようなアクションを起こすことで、社内外に自然関連資本/生物多様性に関する貴社の姿勢を示していく最初の一歩となるはずです。

5.まとめ

本ブログでは、TNFD提言への「賛同」に関するアクションに焦点をあて、TNFDに関連した二つのグループである「TNFDフォーラム」と「TNFD アダプター」の中身とその違いについてまとめました。実際のTNFD提言への対応など、気になるサステナビリティ・ESGに関するトピックについて、今後もブログを更新し、ニュースレターで発信してまいります。

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また、GLIN Impact CapitalではTNFD提言や自然関連の戦略立案などの対応のご支援も可能です。お気軽に以下よりお問合せください。

※お問い合わせに関して、TNFDフォーラム、TNFDアダプターへのご登録等、実際の手続きに関わる個別のご質問へのご回答は致しかねます。登録に関する個別のご質問については、直接TNFD事務局へお問い合わせください。

※GLIN Impact Capitalでは、本ブログに関する一切の法的責任を負いません。

参照

  1. CDP 「企業向け質問書&ガイダンス」https://japan.cdp.net/disclosure/companies-discloser#b0a2dc114c52f96a9bd9e0c09d4c97f4
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