サステナビリティを「てこ」にした地域経済の活性化へ。ほくほくフィナンシャルグループのサステナビリティ・トランスフォーメーションへの挑戦

地域経済の持続的な成長を実現するために地域金融機関が果たす役割は、近年ますます重要になっています。少子高齢化、地方の過疎化、気候変動などの課題が地域経済に大きな影響を及ぼすなか、地域金融機関には、従来の融資業務の枠を超えて、地域企業の経営課題を解決し、持続的な発展に導く役割が期待されています。

北陸銀行と北海道銀行を擁する株式会社ほくほくフィナンシャルグループ(以下、ほくほくFG)は、事業展開地域の持続的な発展のため、自社グループおよびお取引先のサステナビリティ推進を本格化させています。その試みの一環で、2023年にはグループ横断の「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)推進部」を設立。同部設立後まもなくGLIN Impact Capitalのコンサルティングチームを起用し、銀行業務の要である営業店行員の能力開発にも挑戦しました。今回のインタビューでは、GLINと約1年半を共にしたSX推進部長の島田 善朗様とSX推進部副部長の多賀 公昭様にお話を伺いました。

北陸・北海道両行を横断するSX推進部
〜地域活性化とサステナビリティ実現を目指す〜

国内唯一の「広域にまたがる」地域金融機関としてのサステナビリティ・トランスフォーメーション推進

ほくほくFG SX推進部長 島田氏

GLIN:はじめに、ほくほくFGとその特徴について教えてください。

SX推進部 部長 島田氏(以下、島田):ほくほくFGは、北陸銀行と北海道銀行という国内の銀行業務がメインになっている金融グループです。国内で唯一、北陸と北海道という広域で地域金融機関を展開していることが特徴です。

広域であることにはメリットもデメリットもあります。通常、近隣の銀行同士が連携したり、一つの持株会社となったりする際には、重複店舗や人件費などのコスト削減が実現します。一方で、ほくほくFGの場合は両行が地理的に離れているため、コストメリットをあまり享受できません。

しかし、北陸、北海道、および三大都市圏に店舗を構えることで、リスク分散という別のメリットがあるのです。通常の地域金融機関では、営業圏における地域特性によって融資先が立て続けに経営リスクを抱えた場合、自身の経営に大きなインパクトを受けます。我々は広域展開をしているため、他地域での営業基盤がリスク分散につながり、ビジネス上の強靭性が担保されるのです。

GLIN:広域展開をされていることは、ほくほくFGのサステナビリティへの取り組みにも影響していますか。

島田:北陸と北海道は、産業構造、地理的な条件、気候等が異なり、こうした違いがサステナビリティ推進のあり方にも影響していると思います。例えば、製造業の多い北陸地域では、脱炭素社会実現に向けた取り組みの入口として、サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量の算定・削減のニーズが多くありました。北海道では、洋上風力発電をはじめとする再生可能エネルギーの開発に大規模なGX(グリーントランスフォーメーション)投資が見込まれます。金融機関としてそうした新たな産業分野に積極的に参画していくべきだと考えています。

広域にわたって拠点が存在することで、脱炭素社会実現に向けたさまざまな選択肢が生まれ、サステナビリティ推進の追い風となっています。また、脱炭素社会における成長戦略を描きやすくなっていると感じています。

全社のサステナビリティ推進に専念するため、SX推進部が誕生

GLIN:2023年度にグループ横断でSX推進部を設立されましたが、それまではどのような体制でサステナビリティを推進されてきたのでしょうか。

島田:従来は、両行にそれぞれサステナビリティ推進を担当するチームがありましたが、企画業務ではなく事務業務が中心でした。その後、両行でサステナビリティ推進のタスクフォースのようなチームが組成されたものの、兼務が多く専任担当者がいませんでした。今後は地域におけるカーボンニュートラルの取り組みやお客様のSDGs達成に向けた取り組みを、地域金融機関として迅速かつ積極的支援していくため、サステナビリティに専念する部署が必要との経営判断があり、2023年度からほくほくFG全体のサステナビリティ推進を担うSX推進部を設置し、新たな体制で取り組むようになりました。

GLINコンサルティングチームマネージャー 中尾

ほくほくFGの特性や戦略を深く理解したコンサルタントだからこそ実現した本質的な支援

大規模化に成功したサステナビリティ人材育成研修

GLIN:GLINは、2023年からSX推進部を支援させていただいています。SX推進部にコンサルタントを常駐型で起用しようという話になったのはなぜでしょうか。

島田:新しい取り組みにスピード感を持って対応するために、一緒に手を動かしてくれるパートナーが必要だったからです。中途採用なども検討しましたが、サステナビリティ人材の需要に対して供給が少なく、中途採用は難しい状況でした。そこで、組織外の人材であっても、専門性の高い方に早く参画してもらう方が良いと判断しました。実は、組織外の人材を常駐型で起用するのは、ほくほくFGとして初めての試みでした。

GLIN:ご支援開始以来、統合報告書の作成支援や、半導体サプライチェーンリストの作成、中長期投融資シナリオ分析など、さまざまな業務に取り組ませていただきました。印象に残っているプロジェクトはありますか。

SX推進部 多賀氏(以下、多賀):やはりサステナビリティトレーニー研修1が印象的です。以前はSX推進部のメンバーが本研修を企画・提供していましたが、1回あたりの受講者数が10名程度と、どうしても小規模にとどまっていました。

GLIN:今年から研修の受講者数を120名まで引き上げたのですよね。その背景を教えていただけますか。

島田:金融機関としてお客様の脱炭素経営やサステナビリティ対応を進めるには、行員自らがサステナビリティの知識と、お客様と対話する力を身につける必要があります。そのため当社グループは、2025年度までに200名の「SX人材」育成を目標として掲げました。それにより、お客様の脱炭素ニーズに対し、包括的なアドバイスができる人材を各店舗にまずは1名ずつ配置することを目指しています。

それだけの人数をSX推進部のメンバーのみで育成することは、通常業務とのバランスもありなかなか困難です。そこで、ほくほくFGをよく理解し、サステナビリティにも精通するGLINにサポートをお願いしました。

実際にお客様への提案まで行う研修設計とその効果

GLIN:サステナビリティトレーニー研修は、サステナビリティの知識に関する講義もさることながら、多くの時間をお客様への営業を想定した資料作成やプレゼンテーションの研修などの実践的な内容に割くように設計されています。

島田:一般的なサステナビリティ経営の知識は、今では個人でも学べる時代です。しかし、知識だけでは銀行業務に活かせません。研修がいかに実践的で、業務に直結する内容かどうかに、その知識を活かせるかが懸かっているのです。そのため研修も実務を重視し、実際に脱炭素経営のディスカッション資料を作成し、研修期間内にお客様にアポイントメントを取って面談するところまでを実施するようにしました。

多賀:支店の行員は、1人で何十社ものお客様を担当しながら、あらゆる金融商品やサービスを覚える必要があります。近年では、当社グループもポジティブ・インパクト・ファイナンス、サステナビリティ・リンク・ローン、グリーン・ローンなどさまざまなサステナブル・ファイナンスを取り扱うようになり、行員もそれらを理解するのが大変です。GLINが、それぞれの違いを丁寧に説明してくれるおかげで、研修を受けた行員が現場に戻ったとき、「この企業の状況ならこの商材」というように、商材ごとの特徴を的確に判断できるようになったと思います。私自身も研修を監督しながら、自社の商材の復習になりました。

島田:サステナビリティトレーニー研修の核心は、当社の特性や戦略を理解した方に講師をお願いしたことです。我々は、サステナビリティは押し売りするものではなく、あくまでもお客様の経営課題に即した提案ができることが重要だと考えていますし、そのポイントを押さえた研修になっていると思います。

GLIN:島田様は、研修の企画段階から「提案も大事だが、本質的には経営課題のヒアリングを行い、それに合ったソリューションを提供することが重要」とおっしゃっていました。必ずしもサステナビリティ商材を提供することは最優先ではなく、お客様の経営課題解決に並走することがバンカーの仕事の本質なのだと、私も学びました。

島田:SXの“X”はトランスフォーメーションを意味しています。銀行自身も、提案の仕方や営業手法を変えなければ、持続可能な経営は難しいでしょう。AIの活用やDXが進む中で、企業も自ら経営課題を発見し、解決に向けた手段を講じやすくなっています。その中で、銀行員が価値を発揮するには、自らの経験と知識に基づく積極的な対話によって、経営者も気づいていない潜在的な経営課題を特定し、解決に導くことが不可欠です。営業スタイルの変革は、大きなテーマだと感じています。

GLIN:サステナビリティトレーニー研修は、皆さん自身の「トランスフォーメーション」でもあるのですね。1年で3回実施する研修のうち1回目が終了し、今まさに2回目を実施しているところです。ここまでで得られたことや、参加者の変化を実感する場面はありましたか。

多賀:研修を受けた行員が、以前よりも自信をもってお客様と対話できるようになったのが、大きな効果ではないでしょうか。また、営業店が自発的に動き出す様子も見られ始め、受講者が各店舗のキーマンとなり、その人を中心にOJTが進んでいます。実績面でも、サステナビリティの取り組みの入口である「SDGs評価サービス」以外にも、CO2排出量可視化ツールやポジティブ・インパクト・ファイナンスなどの相談も増えてきました。今後は、営業店へのフォローアップも強化していきたいと考えています。

SX推進部副部長 多賀氏

コンサルタント起用による変化

GLIN:今回ほくほくFGとして初めてコンサルタントを常駐型で起用してみて、当初期待されていたことは達成できましたか?

多賀:SX推進部が担当する領域は非常に広く、業務量も膨大です。その中でGLINにはスピード感を持って対応してもらいました。例えば、調査業務においては、GLINは必要なデータを迅速かつ的確に把握し、適切な情報源から引き出してくれています。必ずしも専門知識を持たないSX推進部のメンバーが一から調査するのとは異なり、プロによる作業はとても効率がいいと感じています。SX推進部内の営業店支援担当が主業務に専念できるのも、GLINのおかげです。

島田:1年間の常駐を通じて、SX推進部の若手が大きな刺激を受けたことも、当初想定していなかった成果でした。社外のコンサルタントと一緒に仕事をしたことで、業務の進め方、考え方、仕事に対する姿勢などが、若手社員にとって非常に良い影響となり、私たちにとっても貴重な学びの場となりました。実はここが一番の収穫だと思っています。

GLIN:GLINがご一緒したことで、チームの成長に貢献できたのなら、嬉しい限りです。SX推進部の皆さんは、知的好奇心や成長意欲が旺盛で、私自身も大いに刺激を受けました。こうした人材への好影響が見えてくると、他部門でのコンサルタント起用にもつながるのではないでしょうか。

島田:地域金融機関はどこも人材面での課題を抱えていますが、あるビジネス領域が今後も存続するかどうか不明瞭な中で、積極的なフルタイム採用ができない場合もあります。そのような状況では、専門知識を持つ外部の人材を活用することが、必要なスキルの補充だけでなく、組織の活性化にもつながると気づかされました。

今後の展望〜地域金融機関としての挑戦と成長戦略〜

GLIN:御社にとってサステナビリティとはどのような意味を持つと考えていらっしゃいますか。

多賀:北海道側では、産学官からなるTeam Sapporo‐Hokkaido2が掲げる再生可能エネルギー、次世代半導体、データセンターなど、GXとDXが融合するポテンシャルが大きいと考えています。一方で、これらの分野には大手企業が進出し、地元企業も参画はできるものの、メインプレイヤーになれないのが現状です。そこで、北海道の企業をサプライチェーン上のメインプレイヤーとしっかりと結びつけ、地域の活性化につなげていくことが重要です。また、日本全体としても再生可能エネルギー推進が重要なテーマですから、いかに地元企業をこの流れに巻き込めるかが鍵になります。

島田:北陸や北海道ではサステナビリティに対するニーズが高く、ご支援を開始する良い入口となっています。最終的にはお客様のニーズに応える形でサステナビリティが実現されるべきです。SX分野の面白い点は、銀行員がこれまで接点を持たなかった企画や人事、製造、調達などの部門とも接点ができ、成長戦略に関わる話ができることです。社内のさまざまな部門の方と経営課題について議論することで、さらに金融機関としての強みを活かしたお客様へのご支援につながると考えており、この機会を積極的に活用したいと思います。

GLIN:今後、サステナビリティ推進の文脈で挑戦したいことはありますか。

島田:地域金融機関として、独自の挑戦をしていきたいと考えています。当行本部の役割は、お客様に「サステナビリティのことはほくほくFGに相談すれば解決できる」と思っていただけるよう、当社グループの存在感を高めていくことです。

GLIN:その観点からも、サステナビリティトレーニー研修を通して各支店にキーパーソンを配置することは非常に重要ですね。本記事の読者にとって、御社のSX推進への姿勢と取り組みの理解が深まる貴重なお話だったと思います。ありがとうございました。

北海道銀行本部受付前にて

  1. サステナビリティトレーニー研修:サステナビリティ分野の知識、経験、実践力ある行員の育成を目的として、2023年10月より実施している研修。GLINは2024年度から本研修の実施を受託している。 ↩︎
  2. Team Sapporo‐Hokkaido:北海道の国内随一の再生可能エネルギーのポテンシャルを最大限に活用し、世界中からGXに関する資金・人材・情報が北海道・札幌に集積するアジア・世界の「金融センター」の実現に向けて、2023年6月23日に設立した21機関で構成された産学官金のコンソーシアム(共同事業体)。(https://www.city.sapporo.jp/kikaku/gx/tsh.html) ↩︎

<参考情報>

取材協力:株式会社ほくほくフィナンシャルグループ

取材日:2024年10月25日(本記事の内容は取材日時点のものです。)

撮影:大野颯様

文責:GLIN Impact Capital中尾、竹内、鈴木