インパクト/ESG投資のvalue creationを考える8つの視点

第5回 ESGインパクトアップサイド(2)EBITDA向上(売上増とコスト減)

今回から価値創造アクションを要素分解し、3回に分けてお話しします。今回はPLの改善で、インパクト/ESG投資によって、どのように売上増とコスト減をはかるかという観点についてです。

会社には、大きく6つのステークホルダーが存在します。

このうち、今回のコラムで主に関係してくるのは、顧客、サプライヤー、従業員です。これらのステークホルダーのインパクト/ESG上のアクションがEBITDAに大きな影響を与えると考えます。その意味を3つの切り口でお話ししていきたいと思います。

1. 顧客 – GenZ –

顧客ドライバーによるEBITDA向上はすなわち売上アップということですが、それには顧客に必要な価値をよりよい形で、効率よく提供し続けることという観点が欠かせません。

例えばGeneration Z(以下 、「GenZ」)とは、概ね1990年代中盤から2000年代終盤、または2010年代序盤までに生まれた世代で、生まれながらにしてデジタルネイティブである初の世代とされます。彼らは人数の面でも、将来的な現役時代の長さからも、消費者としても働き手としても最も需要視されています。このような重要な世代が、SDGs、ESGといった課題に今までの世代以上に強い関心を持ち、消費行動、仕事観も含めたライフスタイルからインパクト/ESG投資の大きな追い風になることは間違いありません。

ご存じの通り、売上にはVolumeとPriceがあります。GenZのVolumeの大きさはさることながら、Priceの面も無視できません。京セラ創業者の稲森氏は、「地球にやさしい製品なら、若干値段が高いといっても、それが受け入れられるくらい意識レベルが上がっていると思います。私は非常にいいことだと喜んでおります。」とその著書の中で述べています。

例えばGLINの投資先の坂ノ途中では、農業と暮らしの持続可能化を目指して、大量生産、大量消費、大量廃棄を前提にした流通を主流とする農業の課題に関し、農作物の個性や背景を伝えながら販売していくことで、顧客が季節に合わせた暮らしを楽しみながら、未来や他社を考えていけるような仕組みを生み出しています。

このような事業がGenZ/ミレニアル世代を中心とした有望顧客層から新たな需要を生み出し、サステナブルな売上成長を促進しています。

[グラフ:坂ノ途中の前年比売上高]

(出典:https://www.on-the-slope.com/corporate/wp-content/uploads/2022/12/report_2021-2022_SP.pdf

このように、インパクト/ESG的な経営対応を行うことによって、売上が上がることに繋がり、EBITDA向上を目指すことができます。

一方で、顧客による不買運動により多大な損失を被った企業もあります。ボストンにヘッドクォーターを有するWayfairは低価格でデザイン性の高い家具を販売するネット企業として台頭しましたが、彼らが米政府に納入したマットレスが、テキサスにある移民の子供たちの抑留施設に使われていることが明るみになり、顧客による不買運動が起きました。最終的に従業員500人が抗議のストライキを起こしました。マットレスの売上はわずか20万ドルと引き換えに、従業員とブランド価値を大きく損なうこととなりました。この様にインパクト/ESGを考えることは将来的な売上減のリスクに対応することでもあります。

2.サプライヤー – SCM(Supply Chain Management)最適化 –

サプライヤーはEBITDA上、コストの観点で影響しますが、なかでもGILNで注目しているのはサプライチェーンマネージメント最適化(SCM)の分野です。

インパクト/ESG投資において、SCMは非常に重要な課題です。ファンド観点からみれば、投資先企業単体でESGアクションがあることがもちろん重要なのですが、その先の1次、2次、3次サプライヤーで環境上、人権上の問題がないかも含めて、注視し管理する必要があります。仮に環境上、人権上等の問題があれば、多大なリスクにさらされることとなります。

特にGenZ等消費者はSNS等を駆使し、企業のアクションを意識するしないにかかわらずモニターしており、投資先企業にかかる同観点は勿論のこと、投資先のサプライヤーのあり方も消費者の購買行動に大きな影響を及ぼします。そのため、ESG的意識が強い会社ほど複雑なサプライチェーンの全体像を多面的にモニターしており、将来のリスクへの対応を取っています。

GLINの投資先のアスエネは、企業のグリーンハウスガス(GHG)の排出量を見える化するSaaSを提供しており、サプライチェーンScope2や3のGHG最適化に役立つサービスを提供しています。

3.従業員 / プロフェッショナル – HRM(Human Resource Management)最適化 –

近年人的資本に係る情報開示が進んでいますが、その背景には、企業にとり人材を価値創造の源泉ととらえる考え方があります。

Deloitteが東南アジアの1,000人以上の回答者を対象に行った調査「Gen Z is not Millennial Plus」によれば、GenZ及びミレニアルの56%が、雇用主(企業)の社会的目的や社会的なプラスの影響を、雇用主のブランド人気よりも優先していることがわかりました。

近年は人材の流動化が顕著であり採用のみでは優良な人的資本を維持できない、すなわちリテンションの重要性が高まっている中では、より多くのGenZを惹きつけ、GenZが会社を辞める理由になるような反SDGs的なイメージをいかに払拭するかが重要になってきます。これにより、人材面でのコスト最適化(HRM)に寄与することできます。

このように、インパクト/ESG投資的観点は、HRMの質を向上することにより長期的にコストを削減していくと考えます。

以上、売上向上の上で3つのインパクト/ESGの重要項目について述べました。未だ定性的、アネクドート的ではありますが、長期的にEBITDAに正のインパクトを与えることがイメージできたのではないでしょうか。GLINのAspirationは、このような効果を多くの投資実績によって、見える化、定量化していくことです。それにより、より多くの資金がインパクト/ESG投資に配分され、財務的価値のみならず、社会的価値が定量的にわかる形で創出されていくことにあります。

(文責 加藤有治、木曽みゆき)

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