GLINが考えるインパクト投資とESG投資の違いとは

近年、インパクト投資・ESG投資という言葉をよく聞くようになった方が多いと思います。一方、これらの言葉の使い方や理解については人によって大小様々な認識の齟齬があることを感じています。このような現象(混乱)は、日本のみならず、サステナブルファイナンスが先行して発展している欧米を含めた世界で起きています。インパクト投資・ESG投資は新しい言葉であり、理解に混乱が起きることは生みの苦しみのようなものでもあります。ただし、実際にサステナブルファイナンスに従事する実務家の間ではインパクト投資・ESG投資の違いについては認識が統一されつつあります。

今回のブログでは、グローバルにインパクト投資・ESG投資を行っている実務家としての我々の認識をご紹介したいと思います。(我々の認識が100%正しいということではなく、あくまでも、実務家の間ではこの定義がコンセンサスになりつつあるということを念頭に置いて読んでいただければ幸いです。)

1.インパクト投資とESG投資の定義が混乱している原因

インパクト投資とESG投資の定義の認識が曖昧になっている一番の原因は、それぞれの定義が非常に抽象的かつ概念的な内容であるということです。その結果、人それぞれの立場で解釈にずれが生じています。

2.インパクト・ESG投資 それぞれの定義

インパクト投資の定義(以下Global Impact Investing Network(GIIN)抜粋)

“Impact investments are investments made with the intention to generate positive, measurable social and environmental impact alongside a financial return. ”

「投資をするときにポジティブかつ測定可能な社会的・環境的インパクトと金銭的リターンを獲得することを意図として行われる投資のこと。」

ESG投資の定義(以下PRI原則抜粋)

“We define responsible investment as a strategy and practice to incorporate environmental, social and governance (ESG) factors in investment decisions and active ownership.”

「Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス/企業統治)の要素を考慮した投資活動のこと。」

これらの定義のみでは、それぞれの投資手法の具体・詳細と違いまではよく分かりません。

3. インパクト投資とESG投資の違い

インパクト投資とESG投資は財務リターンの違いによって分類されるものではなく、それぞれが評価する内容(非財務情報の内容)が異なります。財務リターンについて補足すれば、インパクト投資は財務リターンを犠牲にする、もうからない、という印象を持たれる方がいらっしゃいますが、それは間違いです!インパクト投資は、一般的な投資と同じ財務リターンを追求するもの(Market rateのインパクト投資)と一般的な投資より劣後する財務リターンを設定するもの(Below market rateのインパクト投資)の2種類があります。なお、GLINはMarket rateのインパクト投資家です。

それでは、インパクト投資とESG投資が評価する非財務情報の内容はどう違うのでしょうか?
例えば、この分野の最前線で活躍する実務家は下記のように説明しています。

“ESG: 会社のオペレーションや活動に含まれるマテリアルなリスクファクター(SASB等によって定義されるリスク)を評価する。計測には社内のデータが必要とされる。 

Impact: 企業の製品やサービスによってもたらされる正や負の外部性。計測には、文脈(Context)の把握、Output/Outcomeデータが必要。”

SASB, IIRC 創業者, HBS/Oxford professor, Bob Eccles (Impact AlphaのPodcastチャンネルにて)

“ESGはリスクマネジメントのフレームワークと考えられ、インパクトはパフォーマンス指標(Intentionally achieving positive environmental social returns)と考える。例えば、安価な電気供給により貧困層への電気供給を行う事業に投資した場合、インパクト観点では安価な電気の供給量が重要となるが、ESG観点では安価な電力生産のために通常の電気よりエネルギー排出を増やしていないことが重要となる。ESGとインパクトは補完的であり、投資プロセスにおいて一緒に使うことも重要である。”

IFC, Director, Issa Faye (2022年GIIN Investor Forumにて)

この言葉のみでは分かりづらいかもしれませんが、弊社の理解を補足し、ESGとインパクトが評価する内容の違いを一言で説明すると「ESGは製品・サービスが販売される前の社内で起きていること(≒オペレーションに関するもの)、インパクトは販売された後の社外で起きていること(≒製品・サービスに関するもの)」と表現できるかもしれません。図で示すと下記のようなイメージです。

ESG投資≒オペレーションに関するもの

企業が製品・サービスを製造して販売するまでのライフサイクルで発生する様々な問題をどうミニマイズし、どのように社内体制を構築するか。

インパクト投資≒製品・サービスに関するもの

企業が製品・サービスを販売した後に、その製品・サービスがもたらすポジティブな社会変化・影響。

このように聞くと、今までESGと思っていたことが実はインパクトの話だったという印象を受ける方が多いかもしれません。ESG評価においては、インパクト投資での評価を組込まないことが多いため、社会に良いインパクトを生み出す製品を生産している企業のESG評価が低かったり、社会にネガティブなインパクトを生み出す製品を生産している企業のESG評価が高かったりすることがあります。

事例① ESG評価が低かったテスラ

二酸化炭素を排出しない自動車を製造しているため、感覚的にはESG評価が高い気がしますが、ESGのSのスコアが低く最近までESG評価が低くなっていました。これに違和感を覚えたイーロン・マスクがESGを批判したことも記憶に新しいです。

事例②ESG評価が高いガス&石油会社

製品自体が発生するネガティブな環境への影響が高いため、インパクト部分では評価が低くなります。しかしESGの対象となるような社内管理・体制の充実に力を入れて取り組んでおり、ESG評価が高い会社がいくつかあります。

このように見てみると、インパクト・ESGどちらかのみを評価するのではなく、両方の側面から包括的に企業を評価する必要があるとGLINは考えています。

4. GLINが大切にしている価値観とは

GLINとしては、インパクト投資・ESG投資はそれぞれ違うものでありながらどちらも大切であり、相互補完の関係にあると考えています。そのため、インパクトとESGの両方を投資判断や評価に組込んで活動しています。

5. クイズ

それでは、最後におまけですが簡単なクイズです。以下の内容はインパクト的に評価されるのか、ESG的に評価されるのか、どちらでしょうか。

  1. 自社の女性社員・幹部比率を向上させる取組み
  2. 女性の社会進出を応援する女性のためのキャリアサイトを運営
  3. サプライチェーン上で人権問題が起きていないかを精査し、リスクのある調達先からの購買を辞める取組み
  4. 工場において人権問題が無いかをチェックするための従業員携帯IoTデバイスを開発・販売する取組み

GLINの理解では、1と3がESG面で評価され、2と4がインパクト面で評価されます。

いかがでしょうか。製品・サービスが販売されるまでの社内管理などに関するものであればESG、製品・サービスが起こす社会に対するポジティブな変化・影響に関するものであればインパクト、というイメージを持つと分かりやすいかもしれません。

今回は、私たちの経験を基にインパクト投資とESG投資の違いについてご紹介しました。このブログが、みなさまのインパクト・ESGに関するニュースや議論についての理解の深化に貢献出来ていましたら幸いです。