インパクト/ESG投資のvalue creationを考える8つの視点

第8回 経済成長と共に自律的に社会課題が解決されるよりよい資本主義へ

こんにちは。これまで7回にわたる本コラム連載を通して、投資家として、企業が社会に及ぼす正と負の効果をどのように可視化し、企業価値評価に反映させるかを考えてきました。この思考方法が我々の投資戦略、投資判断に大きな影響を与えています。

成長と分配に立ち戻って

最後にもう一度、第1回目に戻って成長と分配の問題を考えてみたいと思います。そこには「持続可能性」というもう一つの考え方の軸が必要です。コラムの主題「ESG/インパクト投資のvalue creationを考える8つの視点」を別の角度から見ると、この8回にわたる連載の中で、持続可能性という軸をどのように企業価値評価の枠組みに取り込むのかということを考えてきたとも言えます。

これまでの経済と社会の繋がりは、何はともあれ経済を成長させ、その結果生じる歪み(社会課題)は、成長から得た原資(税金)を分配することで修正させる、というものでした。これに対して、私たちが実施・提唱するモデルは、歪みをを最小限とするための努力を怠らない一方、歪みをを修正することを目的に組み込んだ成長を追求することであると考えます。整理すると下記のようなイメージになります。

持続可能性を前提とした成長の軸が必要と考える理由は、第一稿のインサイト記事「GLINのミッションについて」で示したように、50〜100年前の牧歌的な経済成長スピードの時代とは異なり、テクノロジー・ビジネスモデルのイノベーションにより経済が加速度的に成長したり、起業から資金調達をし続け一度も黒字にならず(≒税金を殆ど納めることなく)世界的大企業になる企業が出現し始めた現代において、民間企業の成長で作った歪みを税金を原資とした公的機関の分配で修正するということが十分では無い・間に合わないのではないか、という問題意識に基づいています。歪みを作らない成長や歪みを修正することに成長のフロンティアを見出すにはどうすれば良いのでしょうか。この問題意識は若い世代ほど強く肌で感じているのではないでしょうか。以前ご紹介した第5回目の内容である、GenZがSDGsに大きな関心を寄せていることからも理解できます。

この課題は、これまで市場の構造や政府の政策の枠を超えたものであり、近代経済学、厚生経済学、そして企業価値評価手法においても十分に考慮されてこなかったように思います。この問題に真に対処するには、国際機関や国際標準機関が必要であり、その情報を明確に提示し、市場でそれを反映させる枠組みが必要です。

GLINは、経済成長を持続可能性を前提としたものとするために、地球環境に関するコストや社会課題に対するポジティブおよびネガティブな影響を可視化して市場に反映させた価値判断・投資判断を行うことにより、より適切な資源配分の実現を実現し、確固たる社会的土台の構築、発展途上国や未来の世代に公正な分配が行われる企業行動を促進したいと考えます。

インパクト/ESG投資の可能性と、人類が目指す根源的な「成長」

本コラムを通して、GLINが携わるインパクト/ESG投資とはどんなものか、なぜ企業価値を創出すること(成長)と社会的価値の創出(分配)の両立に加えて、社会的善の拡大が重要だとされているのか、そしてその実現のためにはどのような観点で分析を行うべきかなどについて、全8回にわたり網羅的にご紹介してきました。

人類の歩み、本質は、発展・進歩・成長という言葉で表現されることがあり、「成長」し続けることには価値があるという人類の向上心こそがこれまでの歴史を創ったのだと考えます。そして今は地球環境や社会基盤に関する問題の拡大を背景に、「より良い世界を目指したい」という本質的な希求のもと、人類全体の生活をいかにより良い状態に保ち、誰一人取り残さないよう共に成長していくかに取り組み始めているのではないでしょうか。

インパクト/ESG投資は、こうした人類の「成長への渇望」とも言える本質的な欲求を満たしながら、将来世代に渡って成長を持続させるための一つの有効な手段であると信じています。この連載を読んでくださった皆さんが、よりインパクト業界の発展について考える同志となっていただければ嬉しいです。

(文責:加藤有治、木曾美由紀)

全コラム