第3回 「測定インフラの向上」と「価値創造アクション」
こんにちは。
本連載第2回において、ESGインパクト投資がどのようにリスク・リターン以外の第3軸を最適化するかという論点を挙げました。そもそも第3軸とはなにかを突き詰めると、「外部経済性の存在」と「超長期視点の欠如」という観点が重要であるとし、従来の解決策として「財政政策」と「未公開株投資」の活用があるという考え方を示しました。そして、ESGインパクト投資を、もっとも最近の資本主義修正手法として位置付けられるのではないかと考えました。
「財政政策」と「未公開株投資」に比較して、ESGインパクト投資が具体的にどう第3軸を最適化するのか、すなわちこれはどのように「投資のリスク・リターン分析に含まれない外部経済性と超長期視点の取り込み」を実践していくのかというポイントに行きつきます。それには2つの主要な観点があると考えます。
1.「測定インフラの向上」
資本主義が生まれて以来、「株主価値最大化」が至上命題であり、「外部経済性」と「超長期視点」はそのシステムの外にありました。しかしながら、いまグローバルで進むESGインパクト投資の分析手法の標準化は、まさに「測定インフラの向上」をもたらし、資本主義の枠組みを変えることなく「外部経済性」と「超長期視点」を内部化することを目指しています。その分析手法の詳細はまさにESGインパクト投資の中心課題になりますが、他に多くのガイドライン・資料が存在するため本連載ではカバーしません。
2.「価値創造アクション」
もう一つの実行手段である「価値創造アクション」が本連載のメインテーマです。プライベートエクイティ投資(PE投資)の教科書的な価値創造アクションとしては次の3つがあります。
- EBITDA向上
- 現金創出
- Multiple向上
これらの3つの重要なアクションを、GLINの投資活動においてはESGインパクト投資の観点から再解釈しています。これからの連載第4回から第7回の4回にわたって、より具体的にお話しします。お楽しみに。
追加トピック
今回の本題内容はここまでですが、紙幅に余裕があるので、関連トピックとして上場株投資と未公開株投資について少し書いておきたいと思います。「高値・安値覚えはけがの元」という市場の格言があります。これは株が高いか安いかという観点が重要なのではなく、上がるか下がるかということが重要であると解釈できます。一見当たり前に見えて非常に深いものがあります。PEやVCといった未公開株投資においては、「のびしろ」という重要概念がありますがこれに似ています。ただし、上場株資産運用と未公開株投資において「のびしろ」への取り組み方が異なります。
上場株資産運用はESGの観点で絞り込んだ銘柄を買った後は基本的に見守ることや株主として企業と対話することが中心ですが、未公開株投資は場合によっては過半数の株式を取得した上で積極的に経営改善を目指します。これは、透明度が低く、取引コストが高く、流動性が低い未公開株投資をあえて実施する以上は、投資当時よりはっきりとした経営アップサイドが必要であり、そのために投資家には現存の経営を補強する役割を期待されるからです。
上場株資産運用 | 未公開株投資(PE、VC) | |
一般的投資期間 | ミリ秒から数年 | 3-7年程度 |
取引コスト | 僅少 | 取引額の2-5%程度 |
案件数 | 投資方針による | ファンドごとに数件から十数件 |
リターンの根源 | 規模、裁定、事業成長 | 利益成長、現金創出、乗数裁定 |
分散手法 | 効率的フロンティア、資本市場線等 | 案件数 |
出資先への取り組み手法 | トレード、エンゲージメント | 経営参画、100日プラン |
市場 | 公開市場 | 未公開市場 |
GLINでは、「測定インフラ」を向上させることにより、よりよい企業に投資を行うという上場株投資的な投資に加え、未公開株投資(PE、VC)的な「価値創造アクション」の観点が大切だと考えています。今回連載のテーマが「価値創造アクション」であるのもそのためです。
(文責 加藤有治、木曽美由紀)
今後のブログトピック
第4回 ESG/インパクトアップサイド(1)3つのValue drivers
第5回 ESG/インパクトアップサイド(2)EBITDA向上(売上増とコスト減)
第6回 ESG/インパクトアップサイド(3)BS改善・現金創出